CRM

今回は、CRM (カスタマー・リレーションシップ・マネジメント) のお話。

私がこの言葉を聞いたのは、ちょうど去年の暮れあたりからだったから、1 年前くらいからだろうか?当時は実は、打ち合わせでこの言葉が出てきても何のことかまったく意味がわからなかった。本当に突然ふってわいて出てきたような言葉だった。ある時点からたくさん聞くようになった。それが 1 年くらい前だと思う。CRM の考え方は、ひとことで言うのもなかなか難しいのだが、私なりの理解だと、 「新規顧客よりも、今までいる既存の顧客のほうを大事にしていこう」 という企業のマーケティングのあり方のことである。この背景には、モノが行き渡り、市場が成熟した社会では、顧客のパイ (顧客数) を拡大するだけでは利益をあげることができない、というのがある。例えばクルマなら、私たちが生まれる前ならばクルマを持っている家庭とそうでない家庭 (持ちたくても経済的にもてない家庭) があったが、今の日本では当時と比べるとクルマの普及率は格段と上がったと思う。これは、家電、、、すなわち、冷蔵庫、電子レンジ、テレビ、洗濯機、電話などもあてはまる。つまり、誤解を恐れずに言えば、欧米+日本ではモノはほとんど行き渡ってしまったと言ってよいだろう。

そうなると、新しく顧客を獲得するよりも、優良な (=会社に利益をもたらす) 既存の顧客を維持する費用の方がはるかに安い、という考え方がでてきた。 「新規顧客獲得には既存顧客維持費用の 7 倍のコストがかかるといわれている。そこで優良な顧客を囲い込む戦略が必要となってきた」 これが、CRMが出てきた背景である。

CRMは、CS (Customer Satisfaction: 顧客満足度) と無関係ではない。顧客ロイヤルティといって、生涯を通しての顧客の価値こそが企業の収益性と相関の大きい指標であることがデータの裏付けからもわかってきた。顧客志向は従来から多くの企業が企業理念としてあげているし、私がマーケティングのゼミにいた 1992 年にも、教授がしきりに CS、CS と言っていた。でもそれはお客さまを大切にするということでお客さまをみんな画一的に扱っていたが、実際の顧客はそれぞれ個性を持ち、取引の度合いはさまざまなので、これからは、顧客を個客として着目していくのがこれからの顧客志向のマーケティングのトレンドのようである。

これは米国から入ってきた考え方ではあるので、この考え方自体、日本になじむのかどうかわからない。私的には CRM の実践は新規顧客をないがしろにして既存顧客だけを大事にするという印象を受けるので (実際に CRM には利益をもたらさない顧客は企業の方からそっぽを向くような戦略も含まれる) 、なんだかいかにもアメリカ的過ぎて疑問符があったのだが、今年の仕事はこの CRM をやれ、ということだったのでちょっとやってみないとわからない部分がある (っていうか、未知の領域なので、現在、進行中…) 米国では、テレコム (電話など通信業界) 、金融業界 (銀行など) で成功例があるという。

CRM のイメージは、こうだ。今さっき、銀行で普通口座を開設してきたが、家に帰る間に、定期預金の口座も開いておけばよかったと思う。そこで、銀行のフリーダイアル (コールセンターといって、100 人単位でおねぇちゃんが電話の前で待ち構えているところがある) に携帯から電話。 「さきほどは口座の開設、ありがとうございます」 さっきとは明らかに違う人と話しているのに、電話がつながって私がしゃべる前にすぐにこのおねぇちゃんはお礼を言ってきた。そして、3ヶ月定期預金も申し込む。3ヶ月後、定期の満期が近づいてきた。この銀行のホームページに自宅からアクセスすると、 「○○様、いつもご利用ありがとうございます。○○様の定期の満期が近づいております。1 年ものの定期に継続すると金利が 1.0% アップします」 とのメッセージが表示されている。半年後、子どもが小学校に入学。ランドセルも、机も買わなければいけない。するとこの銀行から学資ローンの案内がメールで届く。 「○○ 様、いつも○×銀行のご利用ありがとうございます。ただ今ローンを組めば、○○ 様向けに特別に0.5%金利を下げさせていただきます。こちらの URL からお申し込み下さい」 ………上のシナリオは、私が思いつきで書いたので、ウェブでの個人認証方法 (将来は IC カードになると思われる) や、細かい点は考えていないが、ここで重要なのは、顧客との接点に、コールセンター、メール、ウェブなど、インターネットを基盤とした技術が使われているということだ。日本ではこの中にはもちろん i モード端末もあるだろうし、BS・CS のセットトップボックス (受信機) 、コンビニに置かれているマルチメディアキオスク端末 (ローソンのロッピーなど) も含まれる。CRM に不可欠なのはこれら電子化されたチャネル=顧客との接点;商品・サービスの流通経路なのだ。

当然、銀行の方も、顧客との口座残高以外の取引履歴 (いつウェブにアクセスしたか、いつ電話をかけてきたか、誰が対応したか、など) を管理しながら、顧客1人ひとりに、この顧客が将来自行にもたらすであろう利益の損得勘定をして、定期を金利をアップしたりローンの金利を下げて、しかも絶妙なタイミングでアプローチする、すなわちキャンペーンを打っているのである。

Trackback URL for this post: https://econo.twinkle.cc/trackback/91