IT の世界で民主主義は成立するか (1)

IT に民主主義はなじむものか考察してみたい。ここで言う IT とは主にインターネットを柱とするコンピュータの世界を考える。

  • デファクトスタンダード

    デファクト (defacto: ラテン語 from the fact から) とは、 「事実上の」 という意味であり、スタンダードは標準であるから、デファクトスタンダードとは日本語では 「事実上の標準」 と訳される。

  • デファクトとは

    ITの世界ではデファクトスタンダードとなる技術はそこらじゅうにごろごろ転がっている。ソフトの世界ではマイクロソフトのウィンドウズやオフィス (Word、Excelなど) 、ハードの世界ではインテルの MPU (ペンティアムプロセッサ) 、IBM の AT 互換機 (Mac 以外の PC はほとんどすべて AT 互換機と呼ばれる規格に基づいて作られている) などである。デファクトであるためには (デファクトスタンダードは長いので略して単にデファクトと呼ぶこともある) は、 「誰が決めたわけではないのに」 「市場シェアの大半を占めている」 というのがポイントとなる。なにより、インターネットはデファクトの集合体である。まず先に 「仕様」 があるのではなく、 「良いか悪いかわからないが、これでやってみよう」 という雰囲ですべてが始まってる。つまり、誰かチョー頭の良いヤツが考えたものが先走って広く世界に普及してしまったものを、みんなが使っているのである。

  • デファクトの例 (メール)

    たとえば、インターネットのメールシステムはその典型的な例である。われわれが使ったメールは、実は使っていると不便なことが多い。まず、セキュリティというものが一切考えられていないまま今日まで来ているため、途中で盗み見られることもあるかも知れないし、相手がメールを見たかどうかさえもわからない (すなわち開封確認すらできない) 。届いたかどうかは実際は誰も保証してくれていない。最近はネットやコンピュータの信頼性が上がったために、ほぼ 100% メールが相手に届いていると誰もが 「思い込んでいる」 だけのことである。もしトラブルに見舞われてメールが相手に届いていない場合、プロバイダが保証してくれると思ったら大間違いである。2kids.net のサービスは半年に 1 回くらいよく止まるが、止まってもわたし自信が何ら保証をしないのとまったく同じである (言い訳がましいが、つい 7 年前 (注: 1993 年のこと) はこれ以上の頻度でインターネットのサービスが止まっていたと思う) 。もし重要な内容をメールで送っていて、相手に届かず送信者や受信者が不利益を被ったとしても誰も責任を持ってはくれない。すべての責任は当事者たちにある (その証拠に、どのプロバイダの契約条項にも必ず免責条項があるので読んでみると良い) 。メールの内容も、誰に読まれるかわからない。プロバイダのシステム管理者は、やろうと思えばひとりひとりどんなメールを出しているのか少なくともサブジェクトと宛先はすぐにチェックすることができる。メールの内容を暗号化したとしても、それはメールをやりとりする人の間での取り決めであり、メールシステムとは別の次元なことである。つまり、メールのシステムでは昔の技術がデファクトとなっているために、ステップアップできないままでいるのである。

  • デファクトの例 (WWW と HTML)

    ウェブも世界中の人が知恵を出し合って始まったわけではなく、最初はヨーロッパの研究機関が開発し、それが今では世界中で使われることになっただけの話である。インターネットには標準化団体があり、そこで決められた仕様は RFC (Request for Comment) という形でまとめられていて、技術者はこの仕様書を読むことによってメールやウェブのシステムで情報がどのようにやりとりされるのか知ることができるが、これも、先に技術があり、後から仕様が決まるような感じである。

  • デファクトの例 (ウィンドウズ)

    ウィンドウズは、マイクロソフトという一企業が考え出した OS であり、Mac 以外 (UNIX もあるけどここでは考えないことにする) の PC はすべてウィンドウズが動作しないと何もできないものだと考えてよい。ウィンドウズは、技術者は誰もがそんなによくないものだと思っている。しかし、マイクロソフトのビルゲイツが商売上手だったために (マイクロソフトは、マーケティングが秀逸だった) 、世界中に普及したのである。

  • たくさんの 「良い選択肢」

    このようにみてくると、インターネットを柱とするITの世界ではデファクトが重要なキーワードとなっている。これはどういうことかというと、IT の世界では、 「良い選択肢がたくさんある」 ことに尽きると思う。1 つのことをするのに、あまりにもたくさんのアイディアがありすぎて、誰も決められないのだ。しかし、コンピュータを含むネットへの参加者が同じルールでコミュニケーションをとるためには、何か 1 つ、それが良いものであろうが悪いものであろうが決めなければならないのだ。

    わたしも、仕事をしていて、メンバーとたくさんアイディアを出し合うのだが、どっちも捨てがたい場合がたくさんある。たとえば、モノに番号をふるやり方。この間、仲間と議論していて、わたしは単に数字だけで番号 (ID) を振っていく方法を主張した。一方、同僚は、数字だけでなく文字列も含めた形で ID をふってはどうかと言う。わたしの言う方式のメリットは比較などが簡単に行え、処理がシンプルになることである。一方、同僚の方式では、処理は複雑になるが将来番号をふる対象が増えても対応できるところにある。これらは一長一短があるので、どちらともいえなかった。結局、その時点では、将来のことなど全くわからないので、シンプルな方式を取ったが、これは 「決め」 の問題であり、誰かが 「絶対これだ!」 と言わない限り、物事が先に進まないのである。おそらく、組織の中では、最初はわたしのようにこだわりが強かったり声のでかいヤツが勝つことになる。気の弱いヤツの主張は、それが本当に良いものでもない限り、負けてしまうと思う。

  • マイクロソフトが強い理由

    ウィンドウズがこれだけ普及したのも、ビルゲイツが強引にマーケティングを進めたからに他ならないと思う。ウィンドウズはどうみても Mac をパクっているし (なにしろウィンドウやマウスやアイコンを考えたのはアップルのMac (Lisa) だったのだから) 、技術的にウィンドウズが Mac より超優れていたとは思えない (実際に、当時はどっちもどっちだった) 。

    ブラウザの覇権争いでも、3~4 年前 (注: 1996~1997年のこと) に 「ブラウザ戦争」 などといわれ、インターネットエクスプローラとネットスケープナビゲータがシェアを奪い合ったが、マイクロソフトが資金力にモノを言わせて自社のブラウザをタダで配りまくった (先の組織にたとえれば、マイクロソフトは単に声がでかかっただけということだ) 。このとき、これはあまり知られていないことだと思うが、実はマイクロソフトは自社のブラウザと銘打ちながら、ブラウザの本当の大元であるスパイグラス社の 「モザイク」 というブラウザをベースにして作っていたので、後からスパイグラス社からライセンス料を請求された。当時マイクロソフトは (今はライセンス問題では和解していると思うが) 、スパイグラス社にライセンス料を払ってまでも、ブラウザをタダで配っていたのだ (これは後に有名な裁判の元となる) 。つまり、マイクロソフトはブラウザをタダで配れば配るほど損をすることになっていたわけだ。この名残は現在のインターネットエクスプローラの最新バージョンである IE 5.5 (以上) でも確認することができる。IE の、ヘルプ|バージョン情報 を見てみよう。すると (IE5.5 (以上) の場合) 、

    Based on NCSA Mosaic. NCSA Mosaic (TM) ; was developed at the National Center for Supercomputing Applications at the University of Illinois at Urbana-Champaign.Distributed under a licensing agreement with Spyglass, Inc.

    という英語がでてくるはずである。最初に、 「モザイクがベースです」 とある。そして最後に 「スパイグラス社とのライセンス条項の同意の元に配布している」 とある。

    マイクロソフトの強引な営業は業界内では超有名である。企業の姿勢は攻撃的でソフトウェアのリリースの約束は破りまくりで、、、これは社員が聞いたら怒るかも知れないがウソではない。マスコミも新聞もマイクロソフトが大きな存在で怖いからあまり知られていないだけのことだ。もし今までに聞いたことがあれば、それは単に本当のことを聞いただけだ。

(続く)

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Posted on 2000-07-25 by yas |