今の仕事をできればここで書かれているような世界に持っていきたい。ケータイ先進国日本なら、インフラとしてはアメリカよりも先に実現できるはずだ。これはウォールストリートジャーナル紙からの発信だが、なぜ日本経済新聞はこのような話題を取り上げられないのか。なぜ日本はこのような課題を社会が「普通」に取り組めないのか。アメリカがすべていいとは決して思わない。が、見習うべきところは見習うべきだろう。
2002/12/02 付け ZDNet より無断転載。
[WSJ] 聴覚障害者に魅力のワイヤレステキストメッセージ
米国の約 3000 万人の耳の不自由な人たちの間で、ワイヤレスメッセージングデバイスはユビキタスな存在になりつつある。一般向けワイヤレスデータサービスの低迷とは好対照だ。
ニューヨーク(ウォール・ストリート・ジャーナル)
聴覚障害者の Sonny Wasilowski 氏は、ワイヤレスメッセージングサービスを使うようになるまで、コンピュータに縛り付けられていると感じていた――友人や家族と連絡を取り合うのに常にマシンを起動して電子メールのチェックや再チェックを繰り返す必要があったからだ。バーで友人と落ち合う計画や空港まで迎えにきてもらうといったごく日常的な連絡でさえ、いらいらするほど時間がかかったものだった。
だが今、米ギャローデット大学 (ワシントンD.C.のろうあ者のための大学) に通う 21 歳の学生であるWasilowski 氏は、現在使っている双方向ポケベルによって、接続コードから解放されたと語っている。同氏は双方向ポケベルをほとんど1日中手放すことがないくらいだ。例外は1つだけ。「フィアンセが運転中にこれを使わせてくれないんだ」と同氏。
ワイヤレスメッセージングデバイスの支持者らによると、米国における約 3000 万人の聴覚障害者にとってこのデバイスは、健聴者にとっての携帯電話と同じくらい、ユビキタスな存在になりつつある。Research in Motion や T-Mobile などが出しているポケベルや携帯電話を利用したテキストメッセージングサービスによって、聴覚障害者は、家族/友人/職場の同僚たちと、健聴者と同じようにコミュニケーションを図ることができるようになった。
聴覚障害者間におけるテキストメッセージングサービスの需要は、彼らのコミュニケーション手段を改善する同テクノロジーの革命的な進化と共に急拡大している。この人気は一般向けのワイヤレスデータサービスの需要低迷をよそに伸びており、また低料金化が進んでいるおかげで聴覚障害者にとっては非常に魅力的なサービスとなり得る。しかしそれでもテキストメッセージングサービスは 「安い」 と呼べるレベルにはまだ至っていない。聴覚障害を持つユーザーの中には、緊急番号への対応や (難聴者が電話として使う) テレタイプライタ
(TTY)を含む補聴デバイスとの連係強化を望む人もいる。
約3年前、比較的安価なポケベルが広く出回るようになって、情勢は一変したと指摘するのはギャローデット大学のテクノロジーアクセスプログラム担当ディレクター、Judy Harkins 氏だ。「ポケベルはモバイル通信のニーズを満たし、聴力障害者のコミュニティを引きつけるようになった」 と同氏は説明している。
全米で唯一の聴力障害者向け総合大学であるギャローデットにおいて、ワイヤレスポケベルは必携グッズだ。オブザーバーによれば、教室内では学生たちが親指を駆使してメッセージを入力しており、キャンパス中で
大量のメッセージがやり取りされている。「ポケベルを持っていなければ遅れていると見られる」と Wasilowski 氏も言う。
これまで聴覚障害者は通信手段として長くTTY 電話装置を使っているが、TTY はワイヤレス世界になかなか適応できずにいる。新型の携帯電話に、TTYデバイスにつながるアダプタが必ずしも備わっているわけではなく、デジタル携帯電話サービスは補聴器の妨害となる。さらに健聴者でさえ不快に感じる不安定な携帯電話サービスでは、しばしば音声を聞き取れないことがある。
これに対しワイヤレスポケベルは、TTY 電話装置やそれをつなぐコードといった大掛かりな装置から聴力障害者を解放する。GoAmerica の一部門である Wynd Communications などが提供する聴覚障害者向けポケベルでは、中継オペレーターを通じて、電話機あるいはTTYを使用する相手にテキストメッセージを送ることができる。
ポケベル同士の通信は、聴覚障害者の自立性をさらに促す。TTY 電話装置を使って会話を交わす場合、中継オペレーターが聴覚障害者の言っていることを通話相手に伝えている間、会話を交わす双方は待っていなければならず、その後相手の応答がキー入力されて聴覚障害者に伝えられる。
米国の障害者団体 American Association for People with Disabilities(AAP) の Andy Imperato 会長は、ポケベル通信について「まるでテキスト電話を持ち歩いているようだ」とし、またポケベルは 「インスタントコミュニケーションへの道を切り開いた」 と評価する。
聴覚障害者の Louis Schwarz 氏は、メリーランド州シルバースプリングで公認フィナンシャルプランナーとして活躍している。同氏が開業した1983 年当時、時間がかかり、面倒な中継電話サービスを金融機関に使ってもらうのに苦労したという。
現在、Schwarz 氏は、移動体通信業者 T-Mobile の 「SideKick」 と呼ばれる双方向デバイスを使っている (10月3日の記事参照)。同氏が利用するサービスは、Web ブラウジング、インスタントメッセージ、電子メール、電話サービスの利用が無制限のもの。SideKick はデジタルカメラとしても機能する。
「クライアントと密に連絡が取れる上に、私がサービスを提供しているという彼らの認識も高まっている」 と同氏。
ただし、同デバイスは聴覚障害者のすべてのニーズに応えているわけではない。多くのユーザーは、緊急事態発生時の情報の伝達手段としてポケベルに依存しているが、緊急サービス(日本で 110 番にあたる) 911 番にテキストメッセージを送信することはできない。
またポケベル通信によってオペレーターを介さずに通話できるようになったとはいえ、健聴者同士の会話ほど簡単あるいはリアルタイムで連絡が取り合えるわけではないと Telecommunications for the Deaf の会員サービス/PR 担当ディレクター、Jim House 氏は指摘する。この団体は、聴覚障害者間の技術の普及を推進している。「リアルタイムでの通話ではない。つまり、健聴者が電話で楽しむような会話のやり取りではなく、結局は相手の応答を待たなくてはならないのだ」とHouse氏は説明する。
コストも半端ではない。Wasilowski 氏によれば、友人の多くは、大学を卒業して就職してからは、ポケベルを長時間利用しなくなっている。
それでも聴覚障害を持つ就労者の多くは、ポケベルを職場との連絡を取るための便利な手段と捉えている。「ポケベルは(聴覚障害者にとって)オフィスから離れた場所にいる健聴者がメッセージにアクセスしなければならない場合と同じ機能性を持つ」 と話す GoAmerica の社長兼COO(最高執行責任者)の Daniel Luis 氏は、数百に及ぶ企業ならびに米連邦政府が既にこの目的を遂行するべく取り組んでいると言い添えた。
聴覚障害者の市場の規模はニッチではあるものの、一部の企業は、技術の普及と共にこの市場がもたらす可能性を見出している。ワシントン州にある経営コンサルティング会社、Booz, Allen & Hamilton の調べによると、障害者コミュニティ全体の裁量的支出は1750億万ドル、所得は 1兆ドルに上る。
例えば Verizon Wireless では、同社のネットワークと端末に TTY 互換性を持たせているが、聴覚障害者にとってテキストメッセージングが非常に魅力ある製品であることも十分理解していると同社広報担当、Brian Wood 氏は話す。同社顧客のうち聴覚障害者がどれくらいの数になるのか、同社自身は把握していないが、彼らのニーズにさらに強く応えられるよう来年中に同社の顧客サービスコールセンターを改善する計画だという。
さらに今後の課題として挙げられるのは、ポケベルを利用する上でのある程度のマナーとエチケットだ――観測筋によれば、これは携帯電話のそれとさほど違わないという。聴覚障害者向けの人工内耳を製造するAdvancedBionics のマーケティングマネジャー、Tom Walsh 氏は、最近のカンファレンスで出席者がバイブレータが作動したポケベルをバッグやポケットの中から取り出し、セミナーの最中でも返事を入力している様子を報告している。
だがギャローデット大学でポケベルを使用禁止にするのはかなり難しいだろう。
Wasilowski 氏は、「やってやれないことはないだろうが、実際に禁止になることはないと思う」 とし、大学側が授業中のポケベル禁止を打ち出す可能性を一笑に付す。「禁止すれば (学内が) 無秩序状態になってしまうだろう」 と同氏は語っている。
[Stacy Forster, The Wall Street Journal]