女性が働くことと専業主婦の労働には、密接な関係がある。ここでは、仮に金持ちの独り身の男性と、彼が雇っているメイドに登場してもらおう。メイドは男性の家に住み込みで働き、専用の部屋が与えられ、寝食をともにしているとしよう。
さて、世の中には「専業主婦」というものも存在する。専業主婦は一般的に職業として認められているわけではないが、専業主婦なる存在は、仮に上の独り身の男性が「ある日突然メイドを愛してしまって、次の日に結婚してしまったら?」という問題に最終的に行き着く。翌日からメイドが専業主婦になるわけである。
専業主婦は家事のサービスを提供していると考えられる。そうすると、メイドも専業主婦も、同じ家事サービスをその(雇い主である)男性に提供している。専業主婦とメイドの間で違うのは、彼に対する愛があるかないかだけとする(その意味では、メイド時代にメイドがセックスのサービスも提供していたと仮定)。
そう考えると、愛情の価値を取り除いた経済学的な労働という観点からは、呼び方は違っても専業主婦とメイドでは何ら本質的な違いはないことになる。男性が今まで家事サービスへの対価を賃金という形でメイドに月々支払っていたとすると、そのメイドが今度は男性に妻になった瞬間に、「扶養」という形で妻への生活のコストを負担することになる。
実はメイドと専業主婦では、雇用という「契約」と、結婚という「契約」の違いもあり、どちらも契約に変わりはないが、結婚の方が雇用契約よりも破棄(すなわち離婚)するのが難しいかもしれない。しかし本当に男性との生活がうまくいかなければ、結婚という契約でさえも、自由意思で破棄可能である。その点では契約という我々の社会的なスキームに本質的な違いはない。一方で男性の方は、結婚によって、他の女性と付き合うことが許されなくなる。しかし今までも男性が身近にいるメイド以外の女性に興味を持たなかったと仮定すると、この男性にとっては気持ちの上でもメイドと専業主婦の違いはあいまいになってくる。
経済学的な観点からは、メイドと専業主婦には比較優位の原則が働いている。メイドは家事サービスのプロフェッショナルなのである。もしメイドが独身であれば、彼女は自分の(おそらく一番)得意な仕事に従事しているに過ぎない。逆に、仮に専業主婦が医師の免許を持っているとしたら、彼女はある日専業主婦業をやめて医師として働き始めるかも知れない。それは家事サービスを提供するよりも、自分が提供する医者としてのサービスの方が、経済学的には比較優位だからである。
専業主婦も自分の家に対しての労働であるとして、日本の税制を変えた方がいいというのが私の意見である。配偶者特別控除を最大に受けるためには、38万円までしか稼いではいけないということになっていますが、この38万という数字はまったく根拠がない(ということを、ほとんどの日本国民は知らないと思う)からである。